脚本家・ライター。ささやかな知識をあなたに。ご連絡は→eigarunner@gmail.comまで。 映画ランナー (@eigarunner)
”雨のシーン”について考える。映画をもっと面白く観る為に
シネマラマ
page:2 - 神の視点巧みなアイデアがあるとその雨は単なる雨ではなく、表現としての雨となり、観客の心の奥底に染み入るものとなると思います。
『カサブランカ』では雨によって悲しい雰囲気を助長させるだけでなく、
“手紙”という涙を流すはずのないものを泣かせるという素晴らしい演出
を施しています。
誰が泣いているのか
次も名作ですね。フランス映画『シェルブールの雨傘』
この映画のオープニングは波止場を映した後、カメラは高い所から真下を見るアングルになります。そして有名なテーマ曲が流れ、雨が降り始めます。
旋律の美しさと、非現実的、かつシャレオツなタイトルの出方で一気に気持ちが持っていかれる最高のオープニングですが、雨に注目してみましょう。
よくよく考えてみると非常に変わったアングルです。
真上から真下を見下ろすというのは。最近ではよく、大都会をヘリで真上から撮ったシーンが映画やドラマで挟まれますが、それは物語の舞台を示すため。ただそれだけです。
しかし、この映画でのこの特殊なアングルはそれ以外に意味を持たせています。
それは物語の示唆。
この映画は悲しい映画であるということをオープニングから漂わせているのです。
神の視点”The point of view of God”
もの悲しいメロディーのおかげでその雰囲気は十分に醸し出されているのですが、そこに映像でもほのめかすために“雨”を使っています。では、雨の中傘をさして行き交う人々をただ映すのと、真上から見下ろすような映像で撮ることに違いはあるのか。それがもちろんあります。
真上から見下ろすショットには物語の舞台を説明するということ以外の意味。
それが神の視点”The point of view of God”です。
空から見下ろして私たちの世界を見ている誰かの視点なのです。
ちなみに、これはマーティン・スコセッシ監督がよく使うアングルで、これを踏まえた上で『沈黙』(米:2016)を観るとまた面白いですよ。神がなぜ沈黙しているのか?という問いかけをしている映画で神の視点が用いられている見事さ。
さて、『シェルブールの雨傘』での神の視点が素晴らしいのはそこに雨があるからです。この神の視点に雨を付け加えることで、私達が行うことができない悲しみの表現をしています。
"涙の雨"
言葉としてはありますが、それを見事、映像にしたのは『シェルブールの雨傘』のオープニング・クレジットです。
まるで、これから主人公たちが辿る悲しい運命を既に知っている誰かが、そのことに涙を流し、雨で世界を濡らしているかのように。