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映画に施されたサイン
シネマラマ
page:3 - 別れのサイン:『ディパーテッド』『暗黒街の顔役』別れのサイン:
次にご紹介するのは色ではなくマークです。
それは作品賞を含むアカデミーで四部門を受賞した『ディパーテッド』(2006・米)で描かれます。この映画のサインは“×”です。作品の至る所に“×”のマークが登場します。
壁のフェンス、空港の柱、影の模様、壁の落書き、壁のガムテープなどたくさん画面に映ります。このマークは登場人物がほとんど全員死ぬこの映画の結末を示唆していると考えられます。そして、たった一人だけ登場シーンにてこの“×”のマークに現れない人物がいます。彼がこの映画の黒幕です。
さて、私がこの映画の“×”の見せ方で一番好きなのはパソコンの画面を使ったやり方です。自分がマフィアによるスパイであることがバレたサリバンが潜入捜査官ビリーの警察の履歴を消すシーン。画面には“削除”を示す“×”が映っています。これが一番気の利いているサインでしたね。
ちなみにこの“×”の手法が初めて用いられたと云われる映画はマフィアの抗争を描いたギャング映画の傑作『暗黒街の顔役』(1932・米)です。この映画でも画面にありとあらゆる手段を使って“×”が映ります。これでもかというぐらいバンバン“×”が映るのですが、意外と気づかないです。街灯の影、柱の模様、部屋番号、光の影等々が映り、登場人物たちにバンバンと死が訪れます。
この映画内で最も素晴らしい“×”の出し方は、ボウリング場のシーンです。ついに、敵の大ボスを仕留める際にこれまでとは全く違う物を用いて“×”のマークが出ます。
主人公トニーの標的である敵のボスがボウリング場でストライクを取って喜んでいます。そして、スコアボードにストライクマーク“×”を書き込むんです。
そして、次のボールを投げると同時にボスは銃で撃たれ殺されます。彼が最後に投げたボールをカメラは追い、九本は倒れ、最後のピンはグルグル回ってやがて倒れてストライク。まるでピンが人が倒れるような姿をカメラは捕らえてこのシーンは終わるという、超カッコいいとしか言いようがない見せ方です。