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映画に施されたサイン
シネマラマ
page:4 - 捻じ曲った平等へのサイン『ズートピア』 『羊たちの沈黙』捻じ曲った平等へのサイン
最後にもう一つ。『ズートピア』(2016年:米)でも非常に巧みなサインが施されています。それは身体のサイズです。ジュディが配属されるズートピア警察署で彼女を取り囲む上司や同僚はジュディの何倍も身体のサイズが大きく、そして施設設備も中型から大型の動物用の者に設計されています。唯一サイズがあっている設備はやけにピチピチな制服と駐車禁止を取り締まる小さいパトカーのみでした。
これは彼女がウサギ初の警官だからというのもありますが、もう一つこれらの体格差のサインが指し示すものは”男性社会の中で働く女性”です。職場の大人数の中で働く女性の居心地の悪さをこの映画では体格差で示唆しています。また、警察学校でも理不尽なほど体格が異なる動物たちと同じ能力を求められるシーンも捻じ曲った平等による要求に対してジュディは挑んでいます。
この体格差を使った”男性社会の中で働く女性”を示唆したサイン(演出)は『羊たちの沈黙』(1991年:米)でも用いられた手法です。FBIの男性たちに囲まれたクラリスは一際小ささが際立つように撮られています。
ズートピアのメッセージ
『ズートピア』ではそのことをさらに戯画化して設定を生かしたギャグにもして随所に描いてはいますが、実際は私たちの社会で誤った男女平等によってもたらされた女性が強いられている居心地の悪さをカリカチュアライズして、子供も大人も見られるように変形させているのだと私は考えています。我々の現実で起きている見落としがちなサインを見事に掴み、巧くアレンジして、空想の物語に溶け合わせた素晴らしい例だと思います。
最後に一言
サインとはメッセージです。そこには言葉にのせるよりも感じ取って欲しいという作り手、または発信者の思惑があり、こちらからの能動的な思考の歩み寄りが必要な場合があります。そこに気づけた時、言葉での問いかけや説明よりももっと深く人の心に残ったり届いたりする可能性をこれらのサインは秘めています。